タナトフォビアとは
「タナトフォビア」ってご存じですか?なかなか聞きなれない言葉ですよね。
タナトフォビアは、日本語で「死恐怖症」を表し、精神分析医のフロイトが名付けました。高所恐怖症や先端恐怖症のように恐怖症の1種と考えられています。
この記事では、タナトフォビアについて解説をしていきたいと思います。
目次
- タナトフォビアとは
- タナトフォビアの定義
- タナトフォビアは病気か?
- 現状の課題

1.タナトフォビアとは
聞きなれない言葉「タナトフォビア」とは、「死恐怖症」という意味です。
「無意識」を発見したことで有名な(もちろんその他にも沢山の研究業績がありますが)、精神分析医のフロイトが名付けました。
タナトフォビア = 死恐怖症
ギリシャ語で「thanatophobia」と表し、「thanato」=「死」、「phobia」=「恐怖症」を表します。
高所恐怖症や、閉所恐怖症の仲間と言われています。要は、特定のモノや場所に恐怖を感じるという症状ということです。
タナトフォビア(死恐怖症)の場合、一般的に「自分自身の死への恐怖」を指します。一方で、ネクロフォビア(necrophobia)という言葉もあり、そちらは「死体恐怖症」と訳され、死体や他者の死への恐怖を感じる症状とされています。
恐怖症というと、特定のモノや場所に"非合理の"恐怖を感じるとありますが、筆者としては「死」について恐怖を感じるのは全然"非合理"ではないだろう!!!と少しモヤモヤします。
死について恐怖を感じるなんて当然で、人は今のところ100%確実に死ぬことが決まっていて、死後どうなるかの明確な答えも解っていないのだから、怖くて当然だ!と考えてしまうのです。
精神分析医のフロイトはきっと、死が怖くない方だったのかな?と推察したりします。
少し脱線しましたが、タナトフォビアとはそんな意味です。
また、脱線ついでに、「恐怖症」の根源は全て「死」ではないのかとも考えています。
「高所」が怖いのも、「閉所」が怖いのも、「熊」が怖いのも、「毒」が怖いのも、全てはその先に「死」が待っているから。「死」のリスクがあるからではないでしょうか?
そう考えると、「死恐怖症」は全ての恐怖症のおおもとにあたり、他とは一線を画したっていいのでは?と、そんな気すらしてくるのです。
2.タナトフォビアの定義
タナトフォビアという言葉の日本語訳については前項で述べました。
では次に、タナトフォビア(死恐怖症)という概念の定義について見ていきたいと思います。
こちらに関しては、共通の定義は存在しません。
詳しくは次項で後述しますが、そもそもタナトフォビアは病気ではないからです。疾患名ではないので、これまできちんとした定義というものは作られてきませんでした。
ここで日本タナトフォビア協会としての定義を提示ます。
① ふとした時に死について考え、強い恐怖を感じる
② その死の恐怖が、1回限りではなく継続して(定期的に)訪れる
症状は人によって様々で、程度も様々です。
死の恐怖(特に急性期症状)が年に1回程度しかない人もいれば、毎日感じてしまうという人もいます。程度も様々で、考え始めてしまうと眠れなくなるが朝になれば大丈夫という方もいれば、死が怖くて外に出られないという方もいます。
死を連想して恐怖を感じる対象も様々です。よくあるのは、「宇宙が怖い」「深海が怖い」「飛行機が怖い」などです。それ以外にも、「電車が怖い」「水族館が怖い」「ジェットコースターが怖い」等もあります。
例えば、筆者の場合ですと、急性期症状は現在では年1回程度あるかないかというレベルです。昔はもっと死の恐怖を感じていました。だいぶコントロールがついてきました。
また、飛行機は少し怖いですが、乗るのも好きです。離陸と着陸時にはもちろん緊張しますし、揺れは怖いですが、年に1-2回は乗ります。
これまでにお話を伺ったタナトフォビアの症状がある方の中には、「電車は怖いけど飛行機はワクワクが勝つ!」という方や、「水族館の水槽のガラスが割れたら怖いと感じる」という方、「苦しむのは嫌だと思って、朝までひたすら『安楽死』について検索してしまう」という方もいました。
多種多様なタナトフォビアの症状がありますが、一旦当協会では①死の恐怖を感じるか、②それが定期的にあるか、を定義としたいと思います。
3.タナトフォビアは病気か?
タナトフォビアは「死恐怖症」という意味だと述べました。
「自分は病気なのか?」「どこかおかしいのだろうか?」と考えたことがある方も多いと思います。
ですが、タナトフォビア自体では病気ではありません。
ここは注意していただきたい点です。
タナトフォビアの症状の影響で、日常生活や精神状態に支障が出ている場合には医療的介入が必要な場合があります。
病気とは、今現在で言えば「疾患名」としてそれが使用されているかが一つ判断基準となります。「タナトフォビア(死恐怖症)」はその言葉単独では疾患名として登録されていません。
かといって、全く関係がないかとも言えません。
疾患分類として医療の世界で一般的なのは、WHO(世界保健機構)が出しているICD-11です。また、精神科領域に関してはアメリカ精神医学会の出しているDSM-5もあります。通常、医師が患者を診察し診断を下す際には、ICD-11を使用します。
そのどちらにもタナトフォビア自体は記載がありません。関連する項目として「限局性恐怖症 / 特定恐怖症(Specific phobia)」が記載されています。これは、何らか特定のモノに対して恐怖感を抱く不安症に属します。
ICD-11「限局性恐怖症(Specific phobia)」には下記のように説明されています。
Specific phobia is characterised by a marked and excessive fear or anxiety that consistently occurs upon exposure or anticipation of exposure to one or more specific objects or situations (e.g., proximity to certain animals, flying, heights, closed spaces, sight of blood or injury) that is out of proportion to actual danger. The phobic objects or situations are avoided or else endured with intense fear or anxiety. Symptoms persist for at least several months and are sufficiently severe to result in significant distress or significant impairment in personal, family, social, educational, occupational, or other important areas of functioning. (原文)
(特異的恐怖症は、1つまたは複数の特異的な対象や状況(例えば、特定の動物への接近、飛翔、高所、閉鎖空間、血や傷の光景など)に曝されたとき、または曝されることを予期したときに、実際の危険とは比例しない、顕著で過剰な恐怖や不安が一貫して生じることを特徴とする。恐怖症の対象や状況は避けられるか、あるいは強い恐怖や不安とともに耐えられる。症状は少なくとも数ヵ月間持続し、個人的、家族的、社会的、教育的、職業的、またはその他の重要な領域において、重大な苦痛または重大な機能障害をもたらすほど重症である。)
ICD-11, 6B03 Specific phobia
さらに、単一恐怖症は含み、醜形恐怖症や心気症(疾病恐怖症)は除くとあります。
上記の定義の中で、例として「死」について言及はされていません。ですが、単一恐怖症は含むということで「死恐怖症」についても含まれるのではないかと考えられます。
DSM-5の「特定恐怖症(Specific phobia)」では診断基準として下記の項目を挙げています。
- 過度の恐怖
- 即時の不安反応
- 恐怖の誘因の回避
- 人の機能を制限する症状
- 少なくとも6ヵ月続く症状
- 他の精神障害に起因しない症状
特定の事柄やモノに対して、過度の恐怖があり、即時的に不安を感じ、その恐怖を誘うようなものを避け、人の機能を制限するような症状が出て(不眠とか外出制限とか)、それが6か月以上続き、他に精神障害がない場合…特定恐怖症と診断される、ということです。
タナトフォビアの「死」についても、上記基準が満たされれば「特定恐怖症」と診断される可能性が高いと考えられます。
もちろん、気になる方は専門医の診断を仰ぎましょう。
ここまで見てきたように、タナトフォビアはその存在のみで疾患ではないということです。
死への恐怖を感じるのみでは病気ではない、そこに安心する方もいるのではないでしょうか?
そして、私自身もそうでしたが、死の恐怖は私だけが感じる変なものではなく、仲間がいるものなのだと思ったら、少し嬉しくなったりしないでしょうか?
4.タナトフォビアの課題
ここまでタナトフォビアについて説明を記載していきましたが、課題も色々あります。
まずは、前述もしましたがタナトフォビアにはきちんとした定義が存在しないことです。
当協会の暫定的な定義を前掲しましたが、今後色々な当事者・研究者の方と協議の上、より正確にタナトフォビアを表す定義へのブラッシュアップしていきたいと考えています。
2点目、きちんとした統計データがない。
1点目の「定義がない」ということが大きく影響していますが、定義が曖昧で病気でもないため、実際にどのくらいの人がタナトフォビアの症状が出るのか、明らかになっていません。
症状が出なくなることはあるのか、何歳くらいの人が出やすいのか、これまでの経験等が影響するのか、実際に死が迫った時にはどのようになるのか、分からないことが多いです。
こちらも、現在調査・研究を進めています。
ざっくりとですが、日本人の成人の13%程度はタナトフォビアの症状がある可能性があります。
もちろん、程度の差や怖いものの違いもあり、一概には一括りできないかもしれません。
こちらの調査結果については、ゆくゆく当サイトでも掲載していきたいと思っています。
3点目、「死」がテーマであることの難しさです。
これは2点目の調査・研究があまりないことの理由でもありますが、「死」がテーマとなると、どうしても関わってくるのが「宗教」です。
死について考えること = 世界の成り立ちについて考えること
なので、死生観、宗教観、世界観が関わらざるを得ない。つまり、純粋にタナトフォビアのみを調査したくても、宗教や文化の影響は色濃く出てしまうということ。
国際調査をしたいと考えても、よくよく分析には注意を払わないといけないと考えています。
日本は、神道・仏教の文化が強い国ですが、宗教に関する調査では約7割超が「自分は無宗教である」と回答します。だからこそ、暗黙の文化が影響している部分もあり、逆に無宗教と回答する人が多いので純粋なタナトフォビアについて明らかにできる可能性も高いとも言えます。
「死」「タナトフォビア」について、どのように調査・分析をするのか、丁寧につまびらかにしていく必要があります。
「死」は古来から忌み嫌われる存在でした。もちろん死を喜ぶ人なんていません。
科学の進展により、人間は狩りで命を落とすことも、簡単に感染症で死ぬこともなくなりました。死が日常生活から見えなくなり、人々は死を身近に感じる機会がとても少なくなりました。
死がタブー視され、死を無視している状況から、タナトフォビアの症状を多くの人が孤独に心の中に秘めていると考えられます。
人は全員死にます。
もっとオープンに死について語る場があったらなと思います。
お気づきの点がありましたら、いつでもご連絡ください!



はじめまして。こんにちは。
私はタナトフォビアです。
タナトフォビアについて定義をつきつめて考えたり、明確な区分の中に落としこもうとしていたりする人達がいることがとても嬉しいです。
ここでは私のタナトフォビアになったきっかけや遷移についてお話したいと思います。
私は4歳頃にタナトフォビアになりました。いつものように布団に入って暗い天井を見つめていると、ふと「死んだらどうなるのだろう」と思ったのです。その瞬間に私は死ぬのが怖くなりました。
それからしばらくは定期的に死の恐怖に脅かされてきました。いつも突然不安が襲ってくるのです。夜にそうなると、眠るのも大変でした。
ある時に転機が訪れました。小学3年生のとき、学年で「しぬ」や「しね」という言葉が流行ったのです。初めは「死」という言葉を軽々しく使う同級生たちに忌避感を覚えていました。しかし、次第にこれはチャンスだと考えるようになりました。私はそれから「しぬ」という言葉を積極的に使うようになりました。少し困ったことがあるとすぐに「死ぬわ〜」と言うようにしました。(憎悪もないままに他人に「しね」という言葉を使うのは忍びなく、使いませんでした。)これを続けていくうちに、自分の中で絶対の恐怖の対象であった死の存在が、どんどん軽々しいものになっていくのがわかりました。3年次を終える頃には、タナトフォビアはかなり改善されていました。
今でも定期的に恐怖が襲ってきますが、日常生活には支障がないほどのものに落ち着いています。
長い話を読んでいただきありがとうございました。
なるこ様
コメントありがとうございます!お返事が大変遅くなり申し訳ありません!
「死ぬわ~」とあえて軽く言うようにすることで、死の恐怖がどんどん軽くなったとのこと、とても興味深いです!
ご自身で色々と対処行動を取られていて素晴らしいと思いました。
私自身も、ここ2年ほどは名刺に「日本タナトフォビア協会」と入れていたので、タナトフォビアの説明をする時に「私、死ぬのが怖いんですよ」と言い続けてきました。
すると、確かに私もなるこ様と同じで、なんだか言うことで心が軽くなるような気がしていて、最近はタナトな夜もだいぶ影を潜めています。
暴露療法に近いのでしょうかね、これもまたいずれ調査してみたいな!と思います。
またコメントいただけたら嬉しいです!